ディレクターズワークショップ2018大阪 「最終日」

 

最終日。

成果発表の上演順が発表される。豊島班は3番。

この日は、13時からの本番まで分刻みのスケジュール。稽古して、場当たりして、また稽古。その度に場所移動し他班と入れ替わる。限られた時間の中での最終確認となる。

豊島班はまず、身体を思い切り動かしながらほぐしていった。脱力することで感度を上げていく。

その後は気になるシーンを抜粋して、部分的に何度も繰り返す。豊島さんからは細かい指導が入った。(目線や身体の向き、動きのタイミングなど)

より美しくというのが最終日の到達目標。動き、台詞、演出において前日からの変更はほとんどされず。その為か緊張しつつも、班全体にどこか余裕があったような気がする。(これはあくまで稽古場助手の実感である為、実際に出演する俳優や、その後の質疑応答で矢面に立つ演出家は、私が予測した以上の緊張をこの時抱えていたかもしれない)

本番前の過ごし方については、人それぞれ、持論があると思う。

私は稽古場助手として、この時どうあるべきだったか考える。時間が無い状況だとしても、新たな提案を出すことが出来たのではないか。

後になって考えても仕方が無いのだが、信頼出来る俳優だったからこそ、様々な可能性が頭に浮かんでくる。そこで大失敗して傷をえぐってしまうとしても…DWSの場においてはありだと思ってしまう。何が起こるか分からない方に攻める手が、あったのかもしれない。

 

成果発表を迎える。

俳優の身体に委ねた男女の駆け引きシーン、ここは昨日よりも互いの駆け引き、一手の明確さが打ち出されていているように感じた。しかし全体的に緊張が強く出ている印象。班としては、悔しさを感じる結果であったと思う。

質疑応答。豊島さんは、あらゆる質問に対し力強い言葉で切り返していく。稽古の際に、責任はすべて自分がとるという宣言をしてくれていた。初日のプレゼンから4日間で、ここまで人間が変化することに驚く。それだけこのDWSに覚悟を持って挑んでいたということ…ひしひしと伝わってきた。

飛んできた質問も鋭いものばかり。今回の上演で役者に何を期待したのか。マイムで表現されるこの作品を、俳優とダンサーのどちらにやってもらいたかったか。

この質問に関して自分なりに考えたこと。これは少し長くなりそうな為、後ほど別記事にまとめようと思う。

 

すべての班の発表終了後にワールドカフェが行われた。他班の演出家の所へ行き、質問したり話を聞いたりする時間。

私は制限時間内に自分の思いを伝えきれなかった。改めて、各班への感想をここに残しておきたい。上演順に記していく。

 

広田班

4日間着実な積み重ねがあり安定感を感じた。戯曲の解釈が、演出家と俳優の間で共有されており、5班の中で1番明確な芝居だったと思う。

3日目あたりで俳優の演技が強さだけになりかけているように感じた。目的達成の為には相手を動かさなければならない。しかし時には、本人の思わぬところで相手を動かしてしまうことだってある。それが弱さだったり、そっけなさだったりするかもしれない。今回の上演は登場人物の意思の伝わり方が明快だったが、もっと稽古を重ねたら、俳優の影、謎というような複雑さがより見えてきたかもしれない。

 

西野班

戯曲の読み込みが浅い。顔を合わせない、対峙しないという動きですれ違いを表現しようとしていた。何故すれ違ってしまうのか、その根本を抜かして表面的に動きをつけたように見える。ナポレオンの画を飾っていたのも、内容の説明としか受け取れなかった。この戯曲で求められる権力とは何なのか、説明ではない演出で提示してほしかった。

初日にボルクマンを2人にして演出していたが、そのプランでどこまで観客を説得出来るか、2日目以降も挑戦してみてはどうだったか。分かりやすく簡単な方を選択する前に、もっと試せることが色々あったと思う。

 

古後班

プレゼンから最終発表まで、テントの演出を貫き通した。この戯曲にテントを使うことの有効性って何だろうと疑問であったが、最終日には、雪山にこもるボルクマンもありうる、と思わせた。テントは寒さをしのぐ為だけではなく、ボルクマンの心の砦であり、そこに入っていけるのはエルラだけ。そういう2人の関係の特異性がよく表れていた。最終発表が古後班にとってのスタートであり、ここからテントありきでどう変貌していくのか、発展を見てみたかった。

 

泉班

俳優はボルクマンなのか、イプセンなのか、そのどちらともとれない描き方で迷走していた印象。観客に何を見せたいのか分からなかった。

最終発表で初めて、イプセンとボルクマンの信念がリンクしたように感じた。ここではイプセンの心の中、心象風景が上演されており、エルラはイプセンの抱える罪の意識(家族に対する)の象徴として描かれていたと思う。そうなると彼女はイプセンの妻という見方も出来るが…彼女をどういう存在として捉えるべきか、観客としては判断が難しかった。

プレゼンを聞いて、よく戯曲を読み込んできているのが分かった。見せたいものがもう少し明確であれば、ボルクマンをより強く、説得力のある人間として描けたと思う。

 

 

ワールドカフェ終了後は一度締め。そして打ち上げへ。参加者約40名。

豊島班の人と改めて話したり、他班の人と話したり。

楽しかった。この4日間で初めて気楽な時間だったかもしれない。

誰もが演劇の話をしていた。DWSを経て、これからの未来をどうするか。

演劇に必死で喰らい付き、真剣に向かい合う人達。大阪に飛び込まなければ、ここにいる誰一人として出会うことは無かった。

満身創痍の面々。夜更けと共に人数は減り…全体解散。

DWS2018 in大阪ウイングフィールド、これにて終了。

 

 

あー、楽しかった!良い思い出が出来た!

…なんて終わり方は出来ず。

東京に帰ってきて込み上げてくるのは、悔しさと焦り。

質疑応答でされる討論に、私はついていくのも精一杯。話の内容を理解するまで人一倍の時間がかかった。

ひたすらに言語化が求められる環境にいたはずなのに、伝えられなかった言葉が山ほどある。忸怩たる思い。

こうしてDWSのレポートを書いたのは、私にとって最後のあがき。

今回参加して直接目撃したもの、得たものを発信する、その責任を果たす為に。

 

DWSに関わったすべての方々へ。

ありがとうございました。

 

 

豊島班 稽古場助手

桑野 緑

 

 

番外編へ続く

greenkwn.hatenablog.com

 

過去記事

ディレクターズワークショップ2018大阪「経緯」 - 遊び場

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